読書感想文:まだ見ぬソール・ライター THE UNSEEN SAUL LEITER

2022年12月29日木曜日

読書感想文

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まだ見ぬソール・ライター

写真家ソール・ライターの未発表作を収めた写真集「まだ見ぬソール・ライター THE UNSEEN SAUL LEITER」を鑑賞しました。

ソールは欲とか野心があまりなかった人のようで、6万枚にも及ぶスライド作品を、無造作に箱に入れてほとんど放ったらかしにしていたそうです。それらの未発表スライドから厳選した76点を収録し、世界6カ国語で同時刊行されたのがこの本です。

 

惹かれる表紙

私は写真芸術はさっぱりで、ソール・ライターの名前さえ知りませんでした。そんな私がこの本を手に取ったのは、表紙の写真をひと目見て惹かれてしまったからでした。

雨に濡れた路面、そこに泊まるタクシーと、道を横切る歩行者。タクシーの艶のある緑色の車体とオレンジのテールランプ、横切る人の黒い影、路面の濡れた質感。別になんでもない1シーンなのですが、率直に「カッコいい」と感じました。なにかドラマを感じるような、そんな感覚です。

 

生感のある色

ソール・ライターはもともと絵を描いていた人で、そのせいか写真作品も絵画的な構図、色彩を持っているように感じます。特に色彩については、どの作品も独特の美しさを持っています。ただビビッドで彩度が高い色ということではなく、むしろくすんでいるのですが、なんと言ったら良いのか、色に「生感」があるのです。

作品の中では、表紙にもなっているニューヨークの街の写真(C-001638)も好きですが、セントラルパークと思われる公園の写真、中でも子供が登っている木を下から撮った写真(C-006945)に強い魅力を感じました。

写真の他に、編纂スタッフの語る裏話や、プリント技術者の作品の色彩に関する話など、興味深く読める3篇のエッセイが掲載されています。

死んだはずのソール・ライターを夢に見た編者が、「ちょうどあなたの写真集を編集しているところなんです。こっちに来てどの写真がいいか選んでくれませんか」と語りかけたときのソール・ライターの返答の話や、ソール・ライター自身の言葉「何の変哲もないものを写して、そのなかに特別な何かを見つけるのが好きなのです」が印象に残りました。

 

Judge a book by its cover.

ジャケ買い的に選んだ本でしたが、これは大当たりでした。

見開きの裏表紙に掲載されてる写真は、最初どういう状況なのかわかりませんでした。ARTnews誌1956/1に掲載されたというソール・ライター評「壁に投射されたものは、もともとそこに存在する風景か、あるいは遠い宇宙の一部のようにも見えた」、確かにそんな感じを受けました。

 

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