"好きなことで生きていく"
そう出来たらいいですね。
でも、楽しそうなところばかりに焦点を当てた、「好きなこと"だけ"やっていく」みたいな甘い話には用心です。
この本もそういう類? と思いつつ読んだ「職業は専業画家:無所属で全国的に活動している画家が、自立を目指す美術作家・アーティストに伝えたい、実践の記録と活動の方法」。
全然違いました。
専業画家になるための、実践的・具体的情報が満載
著者は専業画家として活動してらっしゃる福井安紀さん。
30歳で兼業から専業画家となり、年に4、8回ペースで個展活動を行ってきた著者。 ご結婚され、お子さんもいらっしゃり、家も購入された上で、35歳ごろから安定的に絵に専念する生活ができるようになったとのこと。
その著者の経験を元にした、作品の値付け方法、お客さんの作り方、個展での展示の工夫などの具体的、かつ、実践的な情報がこれでもかと掲載されています。
例えば、値付けの考え方について、
- それは100個依頼されても嫌にならない価格か?
- 求める側からみた価格
- 作品に相撲をとらせてみる
などわかりやすい複数の視点を与えてくれます。
著者個人の経験談だけど説得力がある
もちろん全て著者個人の考え方、方法なわけですが、それぞれの根拠や理由がしっかり書いてあり、とても説得力があります。
画廊の前を何人通ったら、そのうち何人が画廊に入り、何人が作品を求めてくださるか? これもご自身の経験から具体的な数値を出して説明されていました。
大変参考になる情報ですが、普通はこんなに赤裸々に明かすことはないと思うのです。 地道に個展活動を重ねてきた著者の接客方針「たくさん話す必要も、愛想笑いも要らない。自分を丁寧にさらけ出すこと」が、執筆時にも出ているのかもしれません。
こういう所にも信頼感が感じられます。
創作におけるヒントもたくさん
活動方法のほかに、著者の「美」や「文化」についての考えを綴ったコラムが何本も掲載されています。
その中には私自身の創作活動にも活かせそうなヒントがたくさんありました。
- 色や形だけでなく触感に表現の新しいヒントがあるのでは?
- 住宅のトレンドと絵の表現の関係、現代のモダンな住空間にあう表現は?
- 「良い絵」とは?真の自分の美を獲得する方法
などなど。
「やりたいことをやるために生きていく」術が綴られた本
お客さんや画廊の方とどう関係を築いてこられたかに著者の良い人柄が見えて、とても好感を持ちました。 「未来の人の文化力を支える小石のひと粒になれれば幸せ」という考えにも共感します。
私は「専業画家の活動ってどんなものだろう?」という興味からこの本を手にとりました。 実践内容のお話はすごく読み応えがありましたし、「美」の追求についての考え方や、良い絵とはどういうものか?など、刺激になる点も多く、大満足の読書でした。
甘い夢想ではない、現実的な「夢」。 「好きなことで生きていく」というよりも、「やりたいことをやるために生きていく」その術が綴られた本です。